恋愛物語 樹里ちゃん

私には一番愛した女の子がいる。あのコがいなければ自分の人生がないくらい、

すごく好きで好きで、20年たった今でもふと思い出して胸が切なくなる。

あのコ以上に好きになったコはいない。

小学六年の春、

樹里ちゃん(仮名)は、私が転校した先の学校にいた。

背が高くて髪が長くて、なんだか大人に見えた。かわいい。

太ってた自分とは違う世界の人に見えた。すれ違うたびに感じるシャンプーのにおい、

人は自分との違いに恋をするんだ。

そんなあのコと少しでも近づきたいけど、まだあのころは純粋だった。声をかけようと

思うと心臓が飛び出しそう。のどがつまってしまうのだ。

夏休みにキャンプがあった。キャンプは女の子と男の子は別のテントに泊まっていた。

お調子者の友達が夜中におきだして、女子のテントに行こうぜと誘ってきた。行った先に

樹里ちゃんがいた。樹里ちゃんはいつもと同じオシャレでかわいくて、夜の薄明かりに照らされて

ますます妖艶だった。夜は人をお調子者にする。私は好きだという気持ちを伝えた。

彼女はうれしいと言った。でも彼女には好きな人がいた。

私は夏休みが嫌いだった。樹里ちゃんに会えなくなるからだ。その間も彼女のことを忘れないように

毎日毎日思い出していた。彼女の斜め45度からみたときの顔。友達と笑いながら話していた後の

それとなく寂しそうな一瞬の表情。そういうのが私の心を切なくさせた。夏休みはすごく長い。

もう一度思いを伝えたい。私は手紙を書いた。好きだという気持ちを一枚の便箋に書いて、破り、

書いて、破り、10枚くらい書いたところでようやく完成した。

2学期になっても返事はこない。私は相変わらず話すこともできず、忘れていたころに返事はきた。

内容は決まっていて、うれしいけれど好きな人のことをあきらめられないと書いてある。彼女の恋もかなって

いないのか。不思議とうれしくなかった。彼女の幸せを願う自分がいる。けどそこには自分はいないのか。

彼女にクリスマスプレゼントをすることにした。小学生だ。買えるものなんてしれている。CDを買った。

彼女の親友にリサーチしてもらった、お気に入りの歌手のCD。ラッピングしてもらって、冬休みに入る前、

下駄箱に入れておいた。

イヤな冬休み。私は進学するために、塾通いを始めていた。本当は彼女と一緒の中学校に行き、ずっと彼女

の側にいたかったのだ。でもそんなのこと、12才の小学生が決めることはできない。

3学期が終わるころにも彼女の気持ちは変わらなかった。数通の手紙をやり取りしたのだ。

卒業式の日、彼女は手紙をくれた。気持ちはうれしいと書いてあった。あなたの優しさにふれて幸せな1年だった

と書いてあった。「ありがとう」。進学する自分ははなればなれになる。受け入れなければならない。

サヨナラ心でつぶやく。樹里ちゃんの幸せを祈った。

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